こころと栄養について

不登校・ひきこもりを克服するための栄養療法 [Page2/5]

法政大学教授 宮川路子

2.こころと栄養について

  不登校やひきこもりの原因として多くあげられているのはいじめや人間関係のトラブルです。ここではいじめを取り上げ、栄養との関係についてみていきたいと思います。いじめや暴力、犯罪は栄養と密接な関係があることは今までに多くの研究によって明らかとなってきています。国民全体の栄養を改善すれば皆のこころが穏やかになり、犯罪やいじめも減って平和な世の中になるのではないかと思われます。

ここで犯罪、いじめ、精神と栄養についての研究結果をいくつかご紹介しましょう。

1)ジャンクフードの摂取といじめ、暴力、精神的な健康:イランの研究(1)

  ジャンクフードの摂取が精神的な健康に影響を与えるというイランの研究があります。
この研究では、6歳から18歳の生徒13486名を対象とした調査で、ジャンクフードの摂取頻度が心配、憂鬱、不眠、不安、攻撃性、無価値などの精神的苦痛と関係し、またジャンクフード(清涼飲料水、ファーストフード、塩味のスナック)の摂取が暴力的な行動(いじめの加害・被害、暴力)と関係していることが示されました。

ジャンクフードの摂取が子供の精神を不安定にして、暴力行動のリスクを高める可能性があるのです。

2)栄養不足と暴力・いじめ:米国の研究(2、3)

  米国でもいじめは大きい社会問題となっています。若者の3人から4人に1人がいじめを受けていると言われているほどなのです。

米国における学齢児童における健康行動の研究(2)では、10歳から17歳の若者8753名を対象として調査を行いました。不健康な栄養が持続的ないじめのリスクを著しく増加させることが示されたのです。たとえば、ジャンクフードを食べることが多い、栄養不足がある若者は人をいじめるリスクがとても高くなるのです。

同じ研究者による別の報告(3)では、米国とヨーロッパの41カ国の14万人以上の児童を対象として調査を行いました。
この研究では、いじめられる子どもについても栄養状態との関係が示されています。質の低い食事をしている子どもはいじめられる危険性が高くなりますし、また、いじめ加害者になる可能性も高くなります。

先進国において、いじめを防ぐためには食事を改善することが有効である可能性が示されているのです。

3)栄養失調と精神障害:米国 バルバドス栄養調査研究(4)

  バルバドス調査では、小児期に栄養不良であった人、また虐待を受けていた人を追跡調査して成人してからの精神障害の発症との関係について報告しています。

小児期に栄養失調であった人は成人期まで続く精神面の健康障害を引き起こす原因となることも報告されています。栄養不足だった人は、成人してから統合失調症や人格障害などの精神障害にかかるリスクが高くなることが示されました。

4)犯罪と摂食障害の関係:スウェーデンの研究(5)

  スウェーデンで行われた大規模なコホート研究(信頼性の高い疫学研究)では、摂食障害とその後の犯罪歴についての関係を調査しました。1979〜1998年にスウェーデンで生まれた女性、95万7106名を15歳から最大20年間も追跡調査した研究です。この研究は個人番号によって病歴、犯罪歴などが一元管理されているスウェーデンだからこそ可能となった質の高い研究であると言えます。

この研究では、窃盗などの犯罪は、摂食障害(拒食症)があった女性で2.5倍も高かったのです。拒食症ではタンパク質、ビタミン、ミネラルの不足が起きます。タンパク質不足は神経伝達物質の不足を引き起こし、精神不安定となります。ビタミンやミネラルが足りないと、体内のあらゆる反応がスムーズに行われなくなり、エネルギー不足となります。
過食症においても、犯罪のリスクの上昇が認められました。

過食ではエネルギー摂取が著しく糖質に偏る傾向があります。糖質の過剰摂取はインスリンの大量分泌により血糖値の乱高下が起きるため、いらいらなどの精神不安定な状態を作り出します。

これらの研究では、栄養状態の偏りは精神的に不安定な状態を作り出し、人格障害などの精神疾患にかかるリスクが上昇し、犯罪を犯す危険性が高いことが示されたのです。

5)健康的なライフスタイルといじめられるリスク:WHOの研究(6)

発展途上国における学生健康調査データを使用したWHOの研究では、栄養、衛生習慣、運動などの健康的なライフスタイルが暴力、負傷の経験やいじめられるリスクと関係していることが示されました。

研究結果を見ると、いじめや体調不良、ひきこもりを減らすためには栄養状態を改善し、運動をするなど、健康的なライフスタイルを確立することがとても大切であるということがわかります。

栄養療法についての情報発信を次のサイトで行っています。ぜひご覧ください。

こころと身体の栄養療法

こころと身体の栄養療法

はじめまして。予防医学、栄養医学を専門としております法政大学の宮川路子です。 私は高校生のとき、父のがん闘病をきっかけに医師を志しました。 医学部を卒業した後、大学院で病気の原因を探る疫学について学び、生活習慣病の原因を明らかにし、リスクを乗り除くことで病気を防いでいく予防医学を専門としてきました。 …